「インドを第二の創業地とする」 KONOIKEグループの挑戦【後編】
※【前編】はこちら:https://www.konoike.net/story/detail/20250625000000.html
※所属・役職名等はインタビュー当時(2024年10月)のものです。
【前編】で紹介したメディカル分野が、「信頼」を得るためにインドで挑戦を続ける間、「ビジネス」としてインドでの事業を牽引していたのが鉄道貨物輸送事業だ。そもそも2008年に駐在員事務所が置かれたチェンナイは、ベンガル湾に面する南インドのタミル・ナードゥ州の州都であって、自動車産業や情報技術産業、ビジネス・アウトソーシング業が勃興する産業振興地域だった。この地で知見を広げたKONOIKEは、現地企業とパートナーシップを結んで2016年にJoshi Konoike Transport & Infrastructure Pvt. Ltd.を設立し、日系物流企業として初めて鉄道コンテナ輸送 (CTO)に本格参入した。
インドは日本の約9倍にも及ぶ広大な国土面積を持ち、商慣習や物流・商流は複雑を極める。輸送ルートやスケジュール管理、料金体系の把握はさらに不透明で、国外企業では対応が難しい場面が多々あった。パートナー企業がそうした要所を押さえてくれることで、インドにおける物流ルールや料金体系を明瞭にしつつ、納期遅れや貨物の損傷、盗難といったトラブル防止に努めることができるようになった。
西インド主要3港(ナバシェバ港・ピパバブ港・ムンドラ港)と、 多くの生産拠点がある北インド・デリー周辺までを結ぶKONOIKEのCTOは、平均して約1,300kmの長距離だ。道路などのインフラが整備途上である点、長距離かつ大量の輸送が可能な点から、インドにおいて鉄道輸送はトレーラ輸送よりも格段に大きなメリットがある。2024年にはコンテナ列車9編成を増便し、運輸能力を従来の約3倍以上(180両から585両)に増強した。それに伴ってインド国内CTO業界での車両保有数は7位となり、インド全土にサービス領域を広げ始めている。
さらに、完成車鉄道輸送事業者(AFTO)の領域も拡大している。自動車は完成品を運ぶことで輸送効率が良くなり、現地での作業がないぶん品質や納品の管理もしやすくなるメリットがあった。CO2や大気汚染物質の排出量も少なくなるため、2070年までにネットゼロ達成の目標を掲げるインドでは、その環境性能も後押しとなっている。貨物専用鉄道の整備が進められていることで、トラック輸送からのモーダルシフトの加速も期待が高まってきた。これを機に、自動車産業が盛んな南部を拠点とするメーカー案件を獲得することが今後の狙いだ。この鉄道貨物輸送事業は、インド全体の売上高の大半を担う主要事業となって、KONOIKEのインド事業を支えている。
「私はこれまでベトナムやタイに駐在してきましたが、当然ながらどの国にもそれぞれの文化があり、日本のスタイルは通用しないことがほとんどです。現地に受け入れられるのは、やはり現地の人であり、現地の企業でしょう。2007年に私がインド進出準備委員として初めて訪れてから16年後に赴任したインドは違う国かと思うほどの変貌を遂げていました。成長著しいインド市場で国内事業を展開していくためには、現地でのパートナー探しやM&Aが重要となります。各事業部と密に連携しながら事前調査を徹底し、インドで本当に必要とされる事業を育てていくことがこれからの目標です。現地を見なければ市場のイメージが掴めないため、日本からインドへ来てもらう機会も増やしました。日本のお客さまを見てみると、インドでのビジネスチャンスがあるお客さまばかりです。これまでのお付き合いに+αの提案をするためにも、全ての事業部でインド展開を進めていける成長戦略を立てていきます」
(営業本部副本部長 兼 インド統括 兼 Konoike India Pvt. Ltd. 代表取締役 蓮實)
鉄道事業での実績とメディカル事業での信頼は、大きな力となって、次の一手へつながっていった。鉄鋼事業と都市ガス事業だ。鉄鋼事業では、インド国営の鉄鋼スラグ(製鉄過程で発生する副産物。セメントやコンクリート、路盤材、肥料、土壌改良材などに使用されている素材)の処理事業会社FSNL Private Ltd..を2025年1月に完全子会社化。日本の粗鋼生産量は約9,000万トンを切り、減少傾向だが、都市開発が続くインドでは生産量が約1億4,000万トン、さらに2030年には3億トンにも上ると試算されている。
KONOIKEは長年にわたって、国内の製鉄所で製鉄原料管理、スラグ処理、鉄鋼製品の加工・梱包、物流、設備メンテナンスなどさまざまな業務を提供してきた。そうしたノウハウを生かし、日印の人材・技術面での交流を通じて、今後世界の製鉄業界を牽引するインドでの収益基盤を築こうとしている。
輸入した液化天然ガスを港から内陸へ、パイプやタンクローリーで運ぶLNG輸送。インドでこれを押し進めていく都市ガス事業だが、都市ガス事業も、長年の取引先である大阪ガス(株)が推進する都市ガス事業に参画することで、動き始めている。
都市ガスという、生活に欠かせないインフラを担う意義は大きく、また、インドでは深刻な大気汚染の影響から、クリーンエネルギーである天然ガスへの注目度も高い。これまで、KONOIKEは大阪ガス(株)の日本国内の都市ガス製造所の保全、LNG輸送、設備の運用管理・メンテナンスを担ってきた。その実績と、物流やエンジニアリングなどの事業を通じて、インドにおける都市ガス事業へ貢献していく。
2024年には、KONOIKEグループ初となる統合会社Konoike India Pvt. Ltd.が発足。インドにおける5つの会社を将来的にグループとして統括し、一元管理による業務・経営を効率化することを進めている。2008年の拠点開設以降、フォワーディング、エンジニアリング、鉄道輸送、メディカル事業を展開、さらに鉄鋼事業へも参入し、インド市場で常に業容拡大・深化しているKONOIKE。日系企業という枠から飛び出し、インド企業としてインド市場に根付きながら、共に歩み、成長していく姿に今後も期待していただきたい。
「現在はエンジニアリング部門強化のための協業先・提供先・買収先を検討しています。新規事業企画もいくつか進行しているので、そちらの基盤づくりを進めつつ、既存事業の拡大や安定化も変わらず進めなければいけません。人材もますます必要になるでしょう。だからこそ昨年、規程を見直し、ハードな環境と責任の大きさの分、福利厚生も改めました。インドでの事業展開の行く末は、これからの社員たちにかかっています。ハードシップの高い国で頑張ってくれるのですから、現地での暮らしのサポートや、安心して働ける環境整備も私の仕事です。インドで生活するには、高い英語能力はもちろん気候・大気汚染・宗教・食生活・ビジネス商習慣などの面においても、日本や東南アジアと比べるとハードシップが各段に高いと言わざるを得ません。 しかし、世界で最も成長すると言われるインドのビジネスチャンスは日本より確実にありますし、難しいからこそ、やりがいも大きいはずです。 グローバルな視点からみても、 地政学、地理的条件・環境、外交問題の面から考えても、インドという国は将来的に同盟関係を維持していくべき、アメリカに次ぐ重要な国であることも間違いないのです。 そこに根差す企業としてどうあるべきか、皆さんと一緒に今後のインド戦略を考えていきたいです」(蓮實)