2030年ビジョン実現に向けて奔走する技術革新本部の軌跡【後編】
※【前編】はこちら:https://www.konoike.net/story/detail/202510140000.html
導入実績としては、技研ICの開設以降、100件近くに上るという。例えば、過去にはこんな事例があった。
「インテリア関係の部品を扱う現場からの相談でした。その現場では、部品にバーコードが付いていませんでした。そのため、特定の部品をピックアップする際は、指示書と品番シールの16桁の英数字とを照らし合わせながら確認しなければなりませんでした。確認する部品の数が1個や2個ならまだいいのですが、そんなことはまれ。桁数が多く、色違いで1文字だけ異なるケースもあるので、目視確認では検品ミスのリスクが高まります。さらに、何回も見比べるので作業員の負担が大きく、時間もかかっていました。
そこでAI-OCRという文字認識技術を活用し、スマートフォンで利用できる『AI-OCR機能搭載 数量検品アプリ』を開発。スマートフォンで検品対象を撮影すると英数字を読み込み、パソコン上で一致、不一致の判別がすぐにできるようになったのです。アプリの開発には1年近くかかりましたが、導入後はミスの回避と時間短縮を実現しました」(鴻池運輸(株) 技術革新本部 課長 鳥飼一男)
もちろん順風満帆というわけではない。
「テレビでよく製造工場内で動くロボットが映ることがありますが、あれは産業用ロボットで、人と隔離された空間で高速かつ高出力で作業を行うことを前提として設計されています。しかし物流の現場では不向きで、安全柵なしで人と同じ空間で作業できる協働ロボットが一般的です。協働ロボットは人と一緒に作業をするため、安全性が重視される分、スピードも遅くなります。また、生産性や効率性を上げるために人と置き換えてロボットを導入する場合、人の動きとの比較になりますが、やはり人間の能力は非常に高く、それ以上の動作をさせるには技術が追い付かない部分も多々あります。そのあたりの課題解決には苦労しています」(鳥飼)
技研IC開設当初から取り組んでいるロボットアームもまだ実用化には至っていない。
「いちばん苦労したのはロボットアーム。取り扱う物の形状がバラバラなので、それにどう対応するか、ピッキングロボットアームはまだ実用化できていません。一方では、現場内の搬送作業を自動化するAGV(無人搬送車)と、自動フォークリフトは実用化されていて、カメラやセンサーなどによるセンシング技術を活用したAMR(自律走行搬送ロボット)も実用化を検討中です」(下村)
2030年が5年後に迫っている今、技術革新本部は今後をどう見据えているのか。
「技術というのは、常に先を見なくてはなりません。例えば、5年先はどんな技術が必要かを考え、それに合わせて人も育てなければなりません。今はいろいろな現場に対応しつつも、その先、10年、20年後の物流業界を予想し、そのなかで人を活かすKONOIKEグループの姿をイメージする。それを実現するためにはどうすればいいのか、議論し、考えていきたいと思っています。
また、物流業界全体に目を向けると、技術の導入が遅れている部分があるのは否めません。2024年問題で話題になったとおり、トラックドライバーをはじめ、人材不足も懸念されています。そういった課題には、業界全体で対応していかなければなりませんが、技研ICでのオープンイノベーションの取り組みが、業界が抱える課題にも迅速かつ効果的な解決策を見出すきっかけになればと考えています」(則竹)
「2030年ビジョン」と密接に結びついている技術革新本部。「技術で、人が、高みを目指す」という明確なメッセージは、単にテクノロジーを導入するだけではなく、技術を有効活用することで、働く人たちの可能性を広げ、より安全で創造的な働き方を実現しようという理念だ。このビジョンの実現に不可欠なのが技術革新本部であり、このメッセージを具現化するために、彼らの働きがある――。(執筆:株式会社徳間書店)