ご安全に。広報室です。 2026年7月2日、東京ビッグサイトで開催された「第1回 物流DX展」※の基調講演「CLO戦略を徹底議論 ― 荷主と物流事業者による本音クロストーク」に鴻池運輸 代表取締役副社長執行役員の鴻池忠嗣が登壇しました。この記事では、鴻池の発言を軸に、当日の講演のポイントをお伝えします。
物流DX展の基調講演「CLO戦略を徹底議論」で議論する登壇者。鴻池は右から2人目
まず、CLOとはChief Logistics Officerの略で、日本語では「物流統括管理者」と訳されます。物流部門だけでなく、調達・生産・販売まで含めたサプライチェーン全体を見渡し、在庫、配送、コストのバランスを取りながら全体最適を進める役割として、注目が高まっています。
モデレーターは(株)ローランド・ベルガーの小野塚 征志氏。パネリストとして、(株)PALTAC 三木田 雅和氏、(一社)フィジカルインターネットセンター(JPIC)奥住 智洋氏、そして鴻池が登壇し、現場改革、CLOの役割、荷主企業と物流事業者のパートナーシップ、フィジカルインターネットの実装可能性まで幅広く議論しました。
聴講者は、荷主企業、次世代CLO候補、物流事業者の経営・企画層を主な対象としており、実務に直結するテーマが並びました。
今回のセッションで鴻池の発言から強く伝わってきたのは、物流改革を「個別現場の改善」で終わらせてはいけない、という問題意識です。自動化やAI活用はもちろん重要ですが、それだけでは足りない。現場で起きている変化を、サプライチェーン全体の最適化につなげていく視点が欠かせない。その考え方が、講演全体を通じて一貫していました。
講演の冒頭で鴻池は、自身が海外事業、技術、業務改革を担当していることに触れた上で、会社を変えていく上での信念として「安全」と「ビジネスを通じた国際交流」の二つを挙げました。物流会社として見られることの多い鴻池運輸ですが、実際には3PL (Third Party Logistics)に加え、生産工程そのものを請け負う3PP(Third Party Production)も事業の柱としており、現場と経営の両面からサプライチェーン全体を見ている点が、今回の議論の土台になっていました。
鴻池は、業務改革を進める上で、業務プロセスの標準化が出発点になると語りました。現場ごとにやり方が違う状態のままでは、AIもデータも十分に生きません。だからこそ、業務をモジュール化し、基準となる流れを定めた上で横展開していくことが重要だという考えです。
新しい技術を入れる前に、まずは「どの業務を、どの状態にそろえるのか」を明確にする。そこが曖昧なままでは、改善の効果も続きません。裏を返せば、標準化ができれば、その先の自動化や可視化は一気に進めやすくなります。
講演では、鴻池運輸の取り組みとしてVLM(Vision Language Model)の活用も紹介しました。これは、画像や動画を読み取り、内容を言葉で理解するAIで、鴻池運輸では、ドイツのEPGグループとの合弁Ehrhardt Konoike Solutions GmbHを通じて開発を進め、ドイツの倉庫での活用も始まっています。物流現場の映像から滞留、放置、危険の兆しを捉えていくという説明でした。
VLMの活用イメージ。物流現場の映像から、滞留・放置・危険の兆しを見つける
ポイントは、AIが現場の代わりになるのではなく、現場の気づきを早める役割を担うことです。人が見落としやすい変化を拾い、異常の兆候を早くつかむ。そうすることで、現場の判断や対応の質を上げていく。鴻池の説明からは、AIを「目新しい技術」としてではなく、現場運営を一段引き上げる実装技術として捉えていることがよく分かりました。
また、デジタル活用を根付かせるには、現場とIT部門が発注者と受注者の関係にとどまらないことも重要だと鴻池は指摘しました。現場が要望を出し、ITがそれに応えるだけでは、現場のプロセスそのものは変わりにくい。データをそろえ、標準化を進め、現場とITが一緒に課題を解いていく関係づくりが、定着の前提になるという考えです。
議論の中心テーマだったCLOに求められるのは、在庫、配送、コストのバランスを見ながら、全体として無理のない形を組み立てることです。さらに、どこまで情報を共有するのか、改善による効果と負担をどう分けるのかといった、企業間の調整も避けて通れません。
まず現状を同じ基準で見えるようにし、そのデータを基に、納品頻度や発注量、在庫の持ち方といった前提条件を見直す。その上で初めて、現場の動線や配置といった改善が効いてくる。これは、荷主企業と物流事業者が一緒に取り組まなければ進まないテーマです。
その際に鍵になるのが、CLOと物流事業者側の推進役となるLPD( Logistics Producer)が同じテーブルにつくことです。パネルディスカッションでは、CLOとLPDが、改善によって生まれるコストメリットをどう分け合うかまで含めて話し合う必要性も示されました。全体最適は、どちらか一方の努力だけでは進まず、負担と成果の配分を共有してこそ前に進む。その点も、鴻池の発言から伝わってきました。
今回の議論で、もう一つ重要なテーマとなったのが、フィジカルインターネットをいかに現実の取り組みとして捉えるかという点です。フィジカルインターネットとは、企業や業界の垣根を越えた協働を前提とする開かれた物流エコシステムです。参加者が共有する標準化された容器・ルール・業務プロセスに基づき、それぞれの持つリソースをデジタル技術を駆使し高度に相互活用することで、個社の物流最適化からサプライチェーン、ひいては経済活動全体の効率向上と持続可能性向上を狙う考え方です。
一方で、実務の現場では、壮大な構想であるがゆえに「理想論」と受け止められることも少なくありません。これに対して、鴻池の話は、いきなり大きな構想を完成させるのではなく、まずはデータを標準化し、連携できる条件をそろえ、そこから共同配送や情報共有を広げていく。そうした積み上げがなければ、全体最適は実現しないという考え方でした。
あわせて鴻池は、自社でも倉庫や現場の自動化を進めてきた一方で、人をロボットに置き換えるだけの個別の自動化には限界があるとも語りました。その先にあるのが、バリューチェーン全体を見渡した最適化です。ドイツで進むインダストリー4.0の取り組みを引き合いに、業界全体で標準化を進め、複数のプレーヤーが連携して全体を最適化していく視点の重要性を強調しました。
KONOIKEグループが目指すのは、バリューチェーン全体の最適化
パネルディスカッションの中で鴻池は、安全についても触れました。AIやデジタル技術によって危険の兆しを早くつかめるようになっても、それだけで安全が実現するわけではありません。安全を優先するという経営の意思があってこそ、技術は意味を持ちます。
効率化の議論が先行しがちな物流DXですが、この指摘は重いものがあります。納期、コスト、人手不足への対応を急ぐ局面でも、安全を後ろに置かない。その前提を崩さずに改革を進める姿勢が、鴻池の発言からはにじんでいました。
今回のパネルディスカッションは、単に「新技術をどう使うか」を語る場ではありませんでした。むしろ本質は、物流を委託する立場の企業と物流事業者が同じテーブルにつき、データ、業務、商習慣の前提を一緒に見直し、さらにコストとメリットの分け方まで含めて話し合えるかどうかにあります。
鴻池の発言を通して見えてきたのは、物流改革の主戦場が、現場だけでも、システムだけでもなくなっているということです。標準化、可視化、条件見直し、現場改善をつなげながら、サプライチェーン全体をどう設計し直すか。その視点を持ち、実務に落とし込めるかどうかが、これからの物流改革を前に進める大きな鍵になると感じました。
物流改革をめぐる議論に、多くの来場者が参加した会場の様子
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ドイツEPGグループとの合弁会社設立について